私たちの宗団(真言宗智山派)について

智山教化センター

宕薬師フォーラム報告

平成30年11月20日 別院真福寺
第34回 愛宕薬師フォーラム

仏具を生み出す伝統と技法~未来の国宝をつくる男たち~

講師
京仏具製作
 京都秀工会
趣旨説明
 今回のフォーラムでは、京仏具製作の技術を受け継ぎ守っている「京都秀工会」の四名の方々を講師にお招きし、仏具製作の歴史と技術を実演、更には体験を交えて学んでいただきました。

木地担当 雁瀬(がんせ)俊彦先生/伝統工芸士
 今日は時間が限られておりますので、概略だけご説明いたします。今ここに展示している四脚の机、お寺の須弥壇などもそうですが、材料としては木曽檜、吉野檜、米ヒバ、ヒメコマツ、そして永らく主流を務めてきた紅松があります。この紅松はロシアからの供給が無くなりましたので、現在はカナダ産を用います。同様の種類にヒメコマツがあります。これらは五葉松といわれるもので、加工がしやすく、狂いが少ないのが特徴です。それ以外では朴葉味噌で葉っぱが使われている朴の木、欅などを使います。欅もだんだんといい木が減ってきて、九州の方からも出てこなくなってきました。欅は木目の模様、杢(もく)を楽しむ木になります。こちらにある笹杢の他にも筍杢、玉杢、波杢など種類が多いですが、こういった木も、なかなか出会えなくなってきています。欅に代わる材として栓(せん)があります。流通が減りましたがまだ手に入りますので、栓の木目を欅に見立て、材の白さをカバーするために欅様に塗ります。次にヒノキ科ですが、まずは米ヒバ。ヒバをあすなろ(翌檜)ともいいますが、「明日は檜のようになろう」と思っている木です。耐久性、耐水性が強いです。次に木曽檜と吉野檜です。お寺でいえば前机の天板、須弥壇の上下框(かまち)に使われます。これがしっかりしていないと長持ちしないので、私はどんな材で作ってくれといわれてもここだけは檜を使います。ではどういった檜を探すかといえば、目のまっすぐ通っている木、そして見た目が綺麗なものです。感覚的なものですが、「綺麗だな」と思えるものは加工がしやすく、仕上げもやっぱり綺麗にできます。吉野と木曽の檜の違いは一目瞭然で、吉野は目が粗く、木曽は目が細かいです。吉野は目の粗さはあっても樹齢百年ぐらいで十分使えるようになりますが、木曽檜が使える太さになるには、最低二百年。三百年、四百年ものでないと使えません。ここにある見本板も江戸時代の木から取ったものです。育つのに時間がかかりますから、需要と供給が合わない。こういった檜は、お伊勢さんの式年遷宮は勿論、名古屋城修復でも使いましたし、羽田空港の「はねだ日本橋」も吉野の総檜造りです。今一番檜を集めているところは鎮座百年祭を控えている明治神宮で、国がバックアップしている事業なので、大変高値で取引されることがありますが、私たちも必要なときは値段に関係なく求めます。そうしないと木曽檜などはなかなか手に入りません。
 次は木組みです。例えば枠を組むとき、ただ接着するだけでも枠はできますが、当然強度は得られません。最近はビスケットと呼ばれている小さな木材を繋ぎに入れるところが多いですが、ほぞ穴にこれを入れた場合、時間が経つと木は動きますから、ビスケットでは割れてしまいます。私たちはもっと太い繋ぎを作って入れ、さらに角に三角の角付けを組んで入れます。これが枠の基本です。ここまでしないと仏具は長持ちしません。
 こちらに製作途中の欅の磬子の台をお持ちしました。脚は四角いもの以外は裾を絞るというのが鉄則ですが、海外ものは同じ太さになっていたりします。この脚元に目玉のような膨らみと葉っぱのような形があるのが見えるかと思います。これは若葉が珠を抱いて上がってきている様子を表したものなので筋、裏脈を入れないと若葉でなくなってしまう。ところが、そういったことを知ってか知らずか、裏脈を一切入れずに箔押しで誤魔化してしまっているものが多いです。この二尺ぐらいの脚は、用材からミシンで切り出して鑿(のみ)を入れて、南京鉋(かんな)、豆鉋、小刀と使い分けていって四本で一日半ぐらいかかります。カタログで見たことがある形かもしれませんが、住職さんの意向を聞き、それぞれのお寺に合わせたオリジナルのものです。こうして木地ができたら塗り、箔、螺鈿、彩色、金具と工程が進んでいきます。

漆工担当 下岡一人(しもおかかずと)先生
 漆にも国産と外国産があります。国産の比率は2%です。年間40トンを主に中国から輸入しています。漆の採取法はうるし掻きといいます。中国の方法は、1回採取したら木を5年寝かせますが(養生掻き)、日本では5、6年の木から1年で3回採取したら、その木は伐採してしまいます(殺掻き)。一回の採取量は150ml程で、産地や採取の方法の違いは硬度に最も現れます。国産はプラチナより硬く、ナイフの刃より柔らかい9Hという硬度まで上がります。現在では文化財クラスの修復はすべて国産漆で行うよう決められていますので、使いたいと思ってもなかなか市場に出てきません。しかし最近では精製技術の向上、輸送網の発達により外国産の品質も上がってきましたので、比較的安く提供できるようになってきたと思います。
採取された生の漆は精製して、塗料屋さんで色をオーダーメイドで調整してもらいます。市場価格は1kgあたり、代用漆といわれるカシューで3千円、中国産で3万円、国産で20万円ぐらいになります。
 漆という塗料は不可逆性塗料に分類されます。乾いてしまうと、溶けない、滲まない。酸にもアルカリにも強く、耐水性、断熱性、防腐性にも優れていています。京漆器を工業試験場で調べたところ、漆器は黄色ブドウ球菌など、食中毒に関係する菌の死滅、増殖させない作用が二年以上続くことがわかりました。
 私たち職人からすると漆には接着剤や保護剤という面もあります。漆の耐用年数は30年以上です。お寺や貴族の建物は良い木を使っていますので、例えば保護剤として木を守るために塗る。また、移築や建て替えの際にほぞ穴などを埋めて漆を塗れば隠すこともできました。今ではそれが難しくなっています。MDFという成形板(ファイバーボード)ではリニューアルはできません。
 漆は酸化重合塗料といって、空気中の水分の酸素を使って高分子化します。この状態で固体になるため「乾く」と表現しており、水分が蒸発して乾くというものではありません。乾燥に良いとされているのは、気温20度、湿度80%の条件です。一次乾燥をこの条件で八時間から16時間、乾燥中はゴミが付かないよう室(むろ)に入れて行います。現場で行う場合は作業条件と乾燥時間に非常に気を使います。例えばお寺で1キロの黒漆を塗る柱があるとします。普通なら1キロだけ用意したらいいと思うでしょう。でも私たちは早く乾く漆、普通ぐらいの速さの漆、遅く乾く漆と各1キロずつ用意します。これを毎日の気候条件と作業の進捗に合わせて、混ぜて使います。今頃の季節だとあまり雨が降らないので、普通に乾く漆10に対して早めに乾く漆4ぐらいの割合でしょうか。条件が上手く合わない場合、早すぎると「縮む」といって、塗膜の表面にシワが出ますし、逆に遅いと垂れます。乾燥の速さは基本的には掻く時期によります。もっといえば掻く人によって、速さ、柔らかさ、透明度が違うといってもいいかもしれません。それだけ繊細な、生きている塗料が漆なのです。塗ったばかりはギラギラした派手さが目立ちますが、時間の経過とともに落ち着いてきて、深みのある色味になってきます。

箔押担当 加藤雅大(まさひろ)先生
 日本で有名な金箔の生産地はどこかご存知ですか。そう、金沢です。金箔には縁付箔と断切(たちきり)箔があります。縁付箔は全て金沢で作られていますが、断切箔は日本以外にベトナム、中国などで作られています。簡単にいってしまうと縁付箔は職人さんが時間をかけて作るもので、断切箔は大量生産品です。生産量は縁付で6千枚/月、断切で2千枚/6時間です。金沢の縁付金箔製造は、国選定保存技術にもなっています。「箔打紙で金箔の質が決まる」といわれるように、両者の違いはまさに箔打紙にあります。縁付は雁皮紙(かんぴし)という、作るのに3か月以上かかる高品質な手漉き和紙を使います。一方、断切の箔打紙は洋紙(グラシン紙)を使います。これにより縁付金箔は、断切金箔に比べて箔の風合いが良く、またより薄く仕上げられるため、箔押の際に箔の境がわかりにくくなるといわれています。もう一つの違いは、名前の由来にもなっている箔の仕上げの違いです。縁付は一枚ずつ既定の大きさに切った金箔を少し大きな紙に挟んでいきます。これがあたかも金箔に縁が付いたようであることからその名になりました。また断切は、金箔を切らずに紙の間に挟んでいき、最後に既定の大きさにまとめて切りそろえるという方法を取ります。工程の差は勿論値段に反映されてきますが、使っている箔の合金の割合は一緒です。
 合金にする理由は、純金では伸ばしにくく、金を打ち伸ばしやすくするために、適度な硬さと変形抵抗を与えるためです。また銀、銅を加える割合により色調を変化させることができるからです。
 縁付、断切ともに金箔といっても純金(24K)、五毛色、一号、二号、三号、四号色、三歩色、水色と色がわかれます。金の割合が高いほど赤味が強く、少ないほど青味が出てきます。普段、皆さま方が仏具で目にされるのは五毛色と一号色から四号色だと思います。五毛色は主に仏像やその台座に使われます。現在では一般の仏壇や仏具は一号色を使うことが多いですが、昔の定番は二号色でした。因みに京都製仏具は一号色の縁付を使っています。三号色、四号色は表具に使われることが多く、四号色を使った仏具となると、超破格の仏具、または海外製品でしょう。一号色と四号色では金、銀、銅を数%の差で調整しますが、全く色味が変わってきます。
 今日ご用意した金箔は断切箔の三寸六分(約11センチ)角です。三寸六分角は主に仏具用、もう一回り大きい四寸二分(約13センチ)角はお寺の柱や長押など貼る面が大きいものに使います。皆さんに体験していただくのは四角小皿の箔押です。三寸六分角の箔で一枚分という大きさですが、いきなりは難しいので、四分の一にカットしたサイズのもので行っていただきます。手順としては①小皿に接着材として漆を塗り、②拭き取り(吹上げ)をして、③竹箸で金箔を置いていく。最後に④綿で押さえて仕上げていく、というものになります。②の吹上げは、拭き過ぎると箔は付きませんし、拭き取りが甘いと箔の上に滲んできます。私は丁度よい吹上げをするのに3年かかりました。その中で自然と漆の作業条件というものを学んだように思います。金箔は真綿で押すだけで充分つきますし、重なりもうまく消せますが、細かいものは専用の刷毛を使って仕上げていきます。およそ3日で箔が定着して完成です。
 箔押は装飾以外に養生という側面を持っています。金箔で養生なんて贅沢ですよね。金箔は漆を守るのです。保護剤として優秀な漆ですが、唯一、紫外線にだけは弱く、劣化し、白化します。しかし、漆を金箔で覆うことで漆を保護することができます。ただ、金箔も銀や銅を含みますので、長年外気に触れていると酸化して白化や緑変が起こります。最近はアクリル系コーティングを用いたりしますが、これも永久ではありません。少しでもいい状態を保つためには、こまめなメンテナンスが必要です。

錺(かざり)金具担当 吉川実先生/伝統工芸士
 金具というとお寺さんや仏壇、仏具の柱や角についている装飾品です。京都の錺金具製造は基本的には彫金工程と錺工程、つまり形を作る人と仕上げをする人に分業されています。私の場合は両方の修行をしたので、自分の思うとおりに金具を製作できます。
 金具の工程は型づくり(設計)から始まり、地金の調整、彫り、魚々子(ななこ)、仕上げからメッキへというところでしょうか。今日ここにお出ししているのは実際に彫った銅板です。皆さんが見かけることの多いこの唐草文様も、忍冬(にんどう)唐草、宝相華唐草、雲唐草、蓮華唐草などさまざまあり、他にも菊、牡丹、藤、蔦、さらには獅子や鳳凰、宝づくしなどデザインは多々あります。またこれらの彫り方については、地彫り、打ち出し、透かし、蹴彫(けぼ)り、薄肉彫(うすししぼ)りなどがあり、それぞれの良さがあります。私は下絵を描かず、ある程度の模様なら頭の中の設計図で一発勝負です。
 こうして彫られた地金の平らな部分には魚々子という粒々を打つことが多いです。他の彫金とは違い、主に地文に用いられ、微細な立体感を演出することができます。一粒から九粒ぐらいまでまとめて打てる鏨(たがね)があり、当然お値段は一粒の方が高いですし、鏨自体の値段もびっくりするほど高いです。仕上げは鑢(やすり)をかけて、細かい傷を取りながら滑らかにしていき、メッキをかけたりします。
 今だったら機械でできるのではと思われますよね。金具ですから型を作って機械でプレスして完成です。その方が安く仕上がりますから、それでもいいという方もいらっしゃいますし、否定もしません。ただ伝統的な、本当の作り方があるということは知っていて欲しいなとは思います。こういった業界では原材料費の高騰が続いていますし、職人不足、更には職人の道具を作る職人まで不足しています。人件費のことも考えると機械化や外国産というのは逆らえない流れかと思います。ただこのままでは伝統技法が失われるという危機感があり、まずは知ってもらおうということで、京都だと小学校で体験してもらう授業があったりします。
 それでは皆さんに実際に体験していただきます。まず下絵をスティックのりで銅板に貼ります。次に木槌と鏨を使って、図柄の線上を叩いていってください。叩き終わったら、打ち出しをします。打ち出しは古くから伝わる立体化の技法です。図柄の輪郭に鏨をあてて柔らかく打つと文様の内側が膨らみますので、裏からも叩いて仕上げます。
 充分打ったつもりでも、鏨の跡がきちんと線状になっている方は少ないんじゃないでしょうか。

おわりに
 昨今、私たちの業界では、外国製品との価格競争、職人の高齢化、後継者不在による廃業に歯止めがかからない状態です。いくら伝統工芸といっても、それを継承する人がいなければ技術は絶えます。まずはその伝統と技法を知っていただくことを一番に考えています。なぜなら、職人を育てるのはお客さんだからです。実際に受注を受けて、どれだけの仕事ができるかという緊張感が職人を育てます。練習だけしても駄目です。そして、その後継となる弟子に仕事をくださるのも、やっぱりお客さんなんです。是非興味を持っていただけたらと思います。
最後になりますが、この機会をくださった皆さまに感謝申し上げます。
(構成/智山教化センター)