第12回 教団付置研究所懇話会・年次大会 報告

常勤研究員 田村宗英

 去る平成25年10月3日(木)、東京都立川市にある真如苑応現院にて平成25年度教団付置研究所懇話会・第12回年次大会が開催された。
 12回目を迎える本会は、宗教・宗派の枠組みを超えて、現在直面している様々な問題に対し各教団がどのように対応しているのか、相互に情報と意見を交換することを目的として開かれている。
 今回のテーマは、「ケアとしての宗教」。出席者は106名(22研究所)であった。
以下、その要旨を記す。
 午前11時半に開会し、その後、浄土真宗本願寺派総合研究所・真名子晃征氏より「教誨師と更生活動」と題する発表があった。
 真名子氏は、教誨師の活動について、百年以上の歴史をもつ宗教者の活動であるが、社会的な認知度はかなり低いのではないかという問題提起から入り、教誨師の歴史や法務省HPに掲載されている教誨師の定義について資料を提示しながら解説。現状については、若手教誨師・女性教誨師が極端に少ないことを挙げ、人材育成が重要であると述べた。また、教誨師の引き継ぎが親戚や知人内で行われることが多いため、教誨師の活動自体が外部につたわりにくいという問題点を指摘すると共に、活動内容についての一般的な書籍や論文がないことも社会的に広く認知され得ない要因であるとした。そして、教誨師は受刑者と社会との架け橋であり、知り得た内容をもっと外部に発信していく必要があると述べ、発表を終えた。
 引き続き、立正佼成会・一食平和基金事務局・秀島くみこ氏より「立正佼成会・一食を捧げる運動」と題する発表があった。
 まず、秀島氏は、「一食(いちじき)を捧げる運動」について、月に数回食事を抜いて、その分を献金し、貧困等の困難な状況にある人々の支援に活用する運動であると説明し、この運動は「同悲(空腹を通して困難な状況にある人々の苦しみを自分の痛みとすること)」、「祈り(困難な状況にある人々の平和を祈ること)」、「布施(節食した分を献金すること)」という三つの精神によって支えられていると述べた。それから、立正佼成会が一食運動に取り組む経緯や氏が所属している一食平和基金のしくみ、拠出実績について説明した後、具体的な活動を貧困(飢餓)の解消・教育人材育成・医療福祉・緊急復興支援という四つに分類し、報告した。
 最後に、オリエンス宗教研究所『福音宣教』編集長・株式会社愛光式典共同代表の鈴木隆氏より「カトリックの葬儀と日本文化」と題する発表があった。
 鈴木氏は、はじめにカトリックの死生観について簡潔な説明を施した後、自身が葬儀社を運営したことによって見えてきた葬儀の社会的機能や問題点、宗教者の役割について話を進めていった。
 葬儀社の社会的役割は三つあり、死体の衛生的な処理(ドライアイス処理・火葬など)・死の告知(葬儀の告知など)・死の受容(宗教の役割)であると説明した。その中でも三つ目の死の受容に関しては、遺族の心のケアであり、とても宗教的役割が大きいものだとして、本来ならば、葬儀社ではなく宗教者が関わる分野であると述べた。「現在の葬儀では、宗教者は葬儀社が全て綺麗に整えてから登場するが、心のケアは愛するものを喪った時点から始まる。そのため、宗教者にはもっと遺族の傍に寄り添ってもらいたい」と訴えた。また、それぞれの宗教・宗派における教義があるけれども、それだけでは遺族の気持ちをしずめることができない場合もあるので、教義を超えた宗教的寛容性も必要であると論じた。
 その後、休憩を挟んで各研究部会(自死問題・生命倫理・宗教間対話)からの報告。また、今年度から智山伝法院では本会の実行委員を務めているが、今回の実行委員会において来年度も引き続き務めることを承認された。そして、閉会挨拶を経て全日程を終了した。

 それぞれの研究所からテーマに則して、現段階での取り組みが発表されると共に、今後の課題として適切な「ケア」をすることができる人材育成の必要性が論じられました。
 また、苦しい立場にある人々を見守る、きちんと理解する、積極的に手を差しのべて支援する、などの様々なあり方がありますが、「ケア」という言葉をどのように受けとめて解釈するかも大きなポイントになると感じられました。
今後、宗教者がいかに苦しい立場にある人々の傍らに立ち、同じ目線をもって歩んでいくことができるのか、その姿勢が今一度問われているといえます